霧笛  ceo feadóg

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#772011.08.12
 獣の唸るような地響き。
 のしかかるような断続的な振動、咆哮を轟かせながら死んでゆく島の、愚鈍な断末魔が聴こえていた。


 彼は立ち尽くしていた、どこにも居場所のないままに。
 彼は、島の客ではなかった。
 ただの通りすがりでしかない。
 彼のいる物置は壊れ始めていた。
 ぱらり、ぱらりと、脆い造りの天井から木屑が舞う。壁からは猛然と埃がたち、棚に並べられた先住者の遺物は総じて床へ撒き散らされた。彼が一つ瞬きをする間に、何もかもが酷い有り様に変わっていた。
 彼はじっと、表情のない目で、真っ白に煙る空間を眺めていた。
 一つ一つ、ピンで壁に留めたわずかな数の歌がばさばさと、手負いの鳥のように羽ばたいて落ちた。
 いずれも彼の独善に占められた籠の内側で、誰に届くこともなく干からび、朽ちてゆくばかりの詞たち。
 手元には、なおも諦め切れず綴られた、不恰好な姿の詩が断片的に残されていた。
 彼はもはや詩人ではない。かつてのように、相対する魂の輪郭を探る力は失われている。
 この場に吐き散らされた詞たちは、そのどれもが彼の指先と頭蓋のなかから現れたものだった。かつていつかにそうしていたように、彼自身にさえ与り知れぬ魂と血の、その向こう側から現れたものではなかった。
 詩としては価値のないものたち。
 それらは不思議と、血の力に守られていた、幼かったときのものよりも優れているように、彼自身には思われた。けれど、その中央はどうしようもなく伽藍胴で、ともすれば見当違いの不当さを含んでいるのだった。
 そのことにどれほどの意味があるものか、彼には分からない。こうして自分が、失われた懐かしさに手を伸ばすことの意味も。
 傾いだ世界に、水が満ち始めた。
 彼の足元を、冷たく濁った海がゆっくりと覆ってゆく。
 彼は立ち尽くしたまま、その空しい潮の流れを見詰めた。両足の骨はその思い出の冷ややかさに、細かく数度の身震いをした。
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人々のこと | CM(2) | TB(0) | 
#76---2011.08.09
 右も左も知らぬまま
 走り出し
 降りかかる頭上の痛みに躓いて
 己のすべてに悪態を吐きながら
 誰も
 真っ直ぐに立つことの支えにはならず
 その方法を教えることはない

 失う前には疎み
 いまとなっては縋り付く
 何と言う浅ましさ、
 差し伸べられた数多の手
 それに気付かぬまま擲った、
 同じだけの無知をいまだに抱え
 落下し続けるだけの

 もはやここに詞はない
 もはやここに剣はない
人々のこと | CM(0) | TB(0) | 
#753282011.08.09
 いまだ幼くそれゆえに
 しなやかに伸び、解かれる
 見えざる腕

 言葉であり
 命であり
 歌であり
 魂である
 すべてを動かす根源の
 その朔にあるもの

 あてどなく染み渡り
 いずれの胸にも浸透する
 吹き往き過ぎる一陣の
 後に残るは俤ばかり
人々のこと | CM(0) | TB(0) | 
#74512011.07.28
 流れ落ちる飛燕草の髪

 白く拙い腕の先
 たわめられながら伸びる様々の
 光りにあてられ燃える、蛾のような
 幻燈の先行き、絡み合い
 もつれた
 糸を辿って

 かつてあまりに長く鎖された魂に

 赤く干からびた地平の向こうで
 高らかに振動する声と音
 魔女が遠くで笑っている
人々のこと | CM(0) | TB(0) | 
#738282011.07.27
 金錆びた鉄の歓声
 撃たれた矢がしなる、
 躊躇いもなく
 突き刺さる鋼たちの、慈悲の冷たさ
 死に覚める両目は凍りつく

 流れ去るものの孤独を謳う、
 嘆きの丘に立ち尽くした
 眠らない亡骸がその血を呼ばわる、
 約束の地へと

 やがて刻は止み
 傷みがその場を支配する
 散らされた涙は何をも救わず
 ただ枯れた地面を濡らすだけ
人々のこと | CM(0) | TB(0) | 

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